旧燈明日記からの引用です。
下坐に生きる By 神渡良平の紹介文です。
隔離病棟のドアをあけると、そこには、痩せこけた一人の青年がいた。
その青年は、開放性の結核にかかっており、余命10日といわれていました。
青年の生い立ちは、それは、それは、悲しいものでした。
生まれる前に父は蒸発、母は青年を産み落として亡くなりました。
その後、親戚や学校から邪魔者扱いにされながら育ち、14歳で家を飛び出し、賽銭泥棒等で生活をしていましたが、警察に捕まり、少年院へ送られました。その後、結核になり、今ここに、人間不信のまま辛い辛い人生の幕を閉じようとしていたのです。
あまりに不憫な青年を、なんとか、救ってあげたいと院長から頼まれ、私はドアをあけました。
私 :「おい!どうでぇい。」 青年:「...」(無応答、しばらく間をおいて...) 私 :「折角、見舞い来たんじゃねぇか。なんとか言えよ!」 青年:「うるせえ!」 私 : 言葉は乱暴だけど、しかし、一瞬の青年の寂しい表情を見逃さなかった...。 私 :「おい、こっち向けよ、今日は一晩看病させてもらうからな」 青年:「チェッ、もの好きな奴やな」生い立ち等の話しをしながら、青年は、次第に心を許しはじめた...。
私 :「折角来たんだ。足でもさすろうか」 私 : さすった足は、枯れ木のような細い足で、骨の形がみえるようだ...。 青年:「おっさんの手は、やわらかいなぁ」 私 :「何言っとるんじゃ。男の手が柔らかいはずがあるかい」 青年:「うんにゃ、柔らかいぞ...、おっさん、あのな!」 私 :「なんじゃ」 青年:「笑っちゃ、いかんぞ」 私 :「笑うもんか、早く言え、もったいぶるな」 青年:「あのなー、一度で言いから、『お父っつぁん』って...呼んでいいかい」 私 :「ああ、いいよ、わしでよかったら、返事するぞ」 青年:「じゃぁ、言うぞ」しかし、青年は言いかけて、激しく咳き込み、血痰を吐いた、私は、背中をさすりながら...。
私は泣いた、それほどまでに、こいつは『お父っつぁん』と言いたいのか...。
私 :「なぁ、今日は止めとけ、体に悪よ」 青年: 苦しい息のとぎれとぎれに、とうとう言った。「お父っつぁん!」 私 :「おう、ここにいるぞ」青年の閉じた瞳から涙がこぼれた、どれだけこの言葉が言いたかったことか...。
青年は大声を上げて泣いた。18年間、この言葉を言いたかったのだ...。
この本の100分の1でも、感動が伝われば、幸いです。
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